漆(うるし)をみんなの自分ごとに ~伝統産業と持続可能な社会~ 堤淺吉漆店 【carré05掲載】


インタビュー | 堤卓也さん


漆の世界が抱える課題

 111年前、明治42年に創業された『堤淺吉漆店(つつみあさきちうるしてん)』を訪れ、4代目の堤卓也(つつみたくや)さんにお話を伺った。


 一口に漆屋さんと言っても、『堤淺吉漆店』は漆の精製を行う、日本でも数少ないお店の一つだ。漆を仕入れ、塗料・接着剤として精製して、文化財や仏壇、仏具、漆器などを扱う職人へ販売している。お店で扱う「箔押漆(はくおしうるし)」は金閣寺の修復作業などで使われ、「光琳(こうりん)」という漆は日光東照宮の修復にも使われている。

 しかし、漆産業自体は非常に厳しい状況にある。一つは生産量の減少の問題。漆は江戸時代には日本国内で年間2000トン採取されていた。しかし、それが大幅に減り、現在は年間1.8トンしか採れなくなっているそうだ。そもそも、漆は10年~15年育てた木からおよそ200グラムしか採れない。日本の漆の木は自生するのが難しく、そのため、人が畑で育てて山に植える。成木に育った頃に掻き子さんと呼ばれる職人が、樹液を採取する。しかし、その仕事だけで生活を維持することは難しく、担い手が少ないのが現状だそうだ。

 そして、もう一つは漆の使用量の減少の問題。江戸時代には2000トンあった需要だが、40年前には中国産と日本産合わせて500トン、卓也さんが仕事を始めた15年前には100トンにまで減少したらしい。この理由としては、利便性やスピードが重視される現代社会において、生活様式や価値観が変化し、大量生産された安価な商品があふれ、漆器などが日常生活から遠ざかり化学塗料が普及したことなどが挙げられる。


『堤淺吉漆店』の使命 

 京都の伝統産業は、分業化され、人のつながりの中でものを作っている場合が多い。漆の場合も、植える人、育てる人、作る人、使う人、修理する人が、それぞれつながって産業を形作ってきた。「人のつながりが、京都の伝統産業の特徴」と堤さんは言う。

 一方、分業制によって、全体像がわかりにくいという問題がある。人のつながりが薄くなっている現代ではなおさらだ。「漆が取れずに一番苦しい思いをしている生産者の状況に気付かず、気が付けば漆が取れない状況になっていた」と堤さんは振り返る。

 こうした中で大事なことは、昔のもの作りを見つめなおし、バランスのとれた自然と共存していくものを作っていくこと。「それをみんなで考え、小さな一歩を踏み出す。そのきっかけに漆がなれたらいい。」と堤さんは言う。


「うるしのいっぽ」

 「伝統工芸ってすごいと言われるけど、じゃあどれくらい漆を使ったものを持っているか聞いたときに、ほとんど持っていない。このままでは、美術工芸品としてガラスケースに入れられたままなくなってしまう」。7年前、堤さんは危機感を募らせた。

 そこで取り組んだのが、冊子『うるしのいっぽ』だった。日本産の漆を増やすために、まずは漆という素材の良さを知ってもらうことを考えた。漆の食器を使っていた京都市のこども園の子どもたちや、生産者・職人に取材した。漆に興味のない人たちにも届けるため、子ども向けにイラストを描き、漆器の製作工程や仕事の面白さも伝える。そして冊子『うるしのいっぽ』を完成させ、幼稚園や、講演先の大学などで配布した。

                            

 また、サーフボード・自転車・スケートボードに漆塗りを施す取り組みも話題を呼んだ。海外のプロサーファーがつくった木製のサーフボードに、漆塗りを施した「漆アライアプロジェクト」は海外でも展示を行い、地元のサーファーにとても反応がよかったそうだ。また、日本でも漆塗りのスケートボードを作るワークショップを行っており、こちらもスケートボードをする若者を中心に人気がある。「漆をみんなの自分ごとにしたい」堤さんはそう語る。そのためには、漆のことを知り、実際に使ってもらうことが一番だ。


                             ▲冊子『うるしのいっぽ』


漆と木のストロー『/suw』

 さらに新たな試みも始まっている。漆と木のストロー『/suw』だ。このストローは丸太を製材するときの端材を原料として使用している。そこに和紙を巻いて職人が一本一本漆塗りを施す。防水性が高く、長期間使い続けられるストローになっている。

 この開発に当たって、堤さんは「持続可能なモノづくり」について考えながらやっていたと言う。モノを作るということは、何を作っても最終的にはゴミになる。肝心なのは作る人の意識。「木のストローはこれまでもあったが、耐久性がなく、結局使い捨てにされ、ごみになっているのが現状。せっかく木を無駄にしないように作ってももったいない。漆を施すことで、耐久性のある使い続けられるストローを作りたかった」と堤さんは言う。また、同時に職人の仕事も生み出したいと思っていた。一人前の職人になるためには、作る過程で研鑽を積んでいかなくてはならない。しかし、漆の消費量が減っている中で、職人が研鑽を積むための仕事も減っている。今回のストローは、すべて職人による手作業で作っていて、職人が技術を高める機会にもなっている。漆業界全体のことも考え、少しずつ変えていく。『/suw』がそういうきっかけになれば、という思いが伝わってくる。

                           ▲漆と木のストロー『/suw』


持続可能な社会を作るためには?

 SDGsについて尋ねたとき、「あまり意識したことはないが、自分がやっていることを話すと、エシカルとかSDGsとか言われるのですよ」とのことだった。そのうえで、大事にしたいと思っていることは「皆で一歩を踏み出すこと」だと堤さんは言う。

 自分を含めて、多くのことが他人事になってしまっている人が多いのではないか、と堤さんは考える。漆だけを考えてみた時に、今の生産量であれば堤さんの代までは持つかもしれない。しかし、自分が好きな漆を残していきたいと思った時には、このままではいけない。漆を残していくことをみんなの自分ごとにしていかなくてはいけないと堤さんは言う。

 そんな堤さんの想いに共感し、自然と協力してくれる人が増えてきたそうだ。「うるしのいっぽ」の冊子を作った時も、サーフボードを作った時も、漆と木のストローを作った時も、常に協力してくれる人がいた。自分にできることをやっていく中で思いを共感する仲間ができ、その輪が広がっていく。まさに、SDGsのパートナーシップの精神を体現しているように感じられる。


読者へのメッセージ

 現在、京北の森林を借りて漆を植えているそうだ。そこは「工藝(こうげい)の森」として、漆以外にも工芸品で必要な植物を育てる予定とのこと。堤さんは「森づくりに来てくれたらうれしい」と言う。また同時に都市部でもモノ作りをする場所を作りたいと考えている。下京区はもともと職人が工芸品を生み出していた文化が根付いている。「山と町をつなげたい。離れたものをつなぎたい。知ることで変わることがある。」このことを形にしたいそうだ。『一般社団法人パースペクティブ』がこの活動を行なっている。興味がある人はぜひ、コンタクトをとってみてほしい。


 今回、堤さんを取材させてもらい、伝統産業を身近に感じることができた。SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」で掲げられているように、作る側も使う側も、自分ごととして製品を見ていかなくてはならない。この記事を通して、モノ作りの作り手の思いが少しでも伝われば幸いである。

                                ▲漆のサーフボード


堤卓也(つつみたくや)

(株)堤淺吉漆店専務

(一社)パースペクティブ共同代表

1978年生まれの2児の父

北海道大学農学部で畜産を学んだのち京都にある家業の漆屋に戻る。

日々漆を精製しながら、漆の植栽などを行う森作りや、サーフィン×漆、自転車×漆など、今までにない組みあわせで離れてしまった現代の漆と人の生活を近づけるべく活動中。


【株式会社 堤淺吉漆店】

〒600-8098 京都市下京区間之町通松原上る稲荷町540番地

TEL:075-351-6279

FAX:075-351-6270

メール:urushiya@kyourushi-tsutsumi.co.jp

HP:https://www.kourin-urushi.com/

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