SDGsは高度に差別化された事業戦略の基軸 ~あるベンチャーの挑戦~ シンク・アンド・アクト株式会社 【Carré05掲載】


インタビュー|伊澤慎一(いざわしんいち)さん


「ひねって・つなげて・つくりだす」

 『シンク・アンド・アクト株式会社』(以下 シンク・アンド・アクト)は、淳風bizQ(旧下京図書館)の中にある設立12年のベンチャー企業だ。自社のホームページ上で「我々は、ひねって、つなげて、つくりだす、仕事づくり会社、です。」と掲げられている。今回、代表取締役の伊澤慎一(いざわしんいち)さんにお話を伺った。


 『シンク・アンド・アクト』の事業内容は大きく3つある。一つめは民間企業を対象とする組織人材開発。採用活動から社内研修、人事制度など、人材に関する企業の悩みに向き合っている。二つめは、行政を対象とする職員研修や協働事業。京都市からの受託事業として、若者の就職カウンセリング等も行っている。三つめは新事業開発。SDGsや社会課題全般に対して、事業主体者として取り組んでいる。

 伊澤さんは、「コンサルティングという言葉は積極的には使わないようにしている」という。一般的にコンサルティングというと、クライアントからの相談に対する解決策の提案というイメージがある。しかし、『シンク・アンド・アクト』は、クライアントの悩みを社会全体の課題と関連づけ、他の主体とともに協働する仕組みを企画・実践まで行う。それを、冒頭の「ひねって、つなげて、つくりだす、仕事づくり」の会社と表現している。

 伊澤さん自身は福井県の漁村で育ち、京都の大学を卒業後、大手銀行に就職。その職場で、病気になって会社に来なくなる人などがいて、自分の働き方に疑問を持つようになった。経済成長だけではない豊かな生き方を伝えたいと、28歳の時に幼児教育の会社として『シンク・アンド・アクト』を立ち上げた。結果的に幼児教育の事業はうまくいかなかったが、子どもたち向けのプログラムを大人向けの人材育成支援に活かせるのではないかと思い、最初の人材開発プログラムを外資系の銀行に買ってもらった。その後、リーマンショックで派遣切り等が深刻になり、京都府の委託を受けて派遣切り等にあった人たちの就労支援プログラムを立ち上げ、その経験から就職が難しい学生に対しての相談事業を行うようになった。その後も、一つずつ実績を積み重ねて、今に至っている。伊澤さんは言う。「”自分は専門家“と言った瞬間危ないと思う。チャレンジしたい。」


会社とSDGs

 ここで、SDGsに対する認識を聞いた。「常に世界とやってかなければいけない」と伊澤さんは言う。2016年、伊澤さんはドイツを訪れ、素材の展示会で当たり前のようにバイオプラスチックなど持続性を意識したラインナップがあることを目の当たりにした。そして、サステナビリティ(注:持続可能性)を基軸にした事業開発は会社が生き残るためにやっていかなければいけない戦略だと感じたという。「”モア・イズ・ベター“(注:多い方が良い)から、”サステナブル・イズ・スマーター“(注:持続可能な方が賢い)という時代がやってきた。」と伊澤さんはいう。

 また、日本ではSDGsを17の目標ひとつひとつに分けて考える傾向があることを指摘する。SDGsをコミュニケーションツールとして捉え、社会にとって一石X鳥となるような取組を進めていくことが必要だという。たとえば、『シンク・アンド・アクト』では、独居老人の見守りが必要だという社会問題に対して、AIが家庭の電力の使用量を推測し、関連機関にアラームを送る仕組みを開発している。その仕組みの開発には、紛争によって母国を離れざるをえず、日本で生活しているシリア出身の方が活躍している。高齢者の福祉、ICTの活用、在留外国人の就労という個別の課題を包括的に解決していく枠組み、それをサステナビリティと捉えている。


オランダのSDGsを紹介

 昨年の10月・11月、『シンク・アンド・アクト』は淳風bizQで『オランダSDGsを体験するデジタルツアー』を開催した。イベントのテーマは共生。伊澤さんは「支援する側とされる側がいる以上、共生ではない。支援者、非支援者がいないのが理想の共生である」という。

 イベントでは、SDGsの分野においてリーダーシップを発揮するオランダの先進的な取組を紹介した。2回実施されたイベントのうち、1回目はオランダの社会起業家が登壇した。「インパクト・ファースト、ファイナンス・セカンド」(注:社会的影響が一番、財政や資金は二番)という社会起業の理念と、ソーシャル・ダイバーシティ(注:社会的な多様性)の考え方に基づいてご自身がプロデュースされた障がい者専用のサッカーコートの事例を紹介された。2回目は、建築分野でサーキュラーエコノミー(注:循環型経済)を実現するための取組を行っている方を講師に迎えた。バイオマテリアル(注: 再生可能な素材)を使った環境負荷の少ない建築を提案されていて、直線型消費ではいけないというメッセージを伝えられた。イベントの実施に当たって、旧下京図書館という開催場所にもこだわった。地域の人が知識を求めて集まる場所だった旧図書館を、SDGsという最新の事例を知ってもらう場にするということを意識した。

 伊澤さんは言う。「昔の里山は集落営農型のコミュニティで、皆で稲を作って運び、水もわけあっていた。現代版の集落営農型のコミュニティを作りたい。」こうした場づくりが、『シンク・アンド・アクト』の”ひねる“ということなのだと実感した。


▲オランダSDGsを体験するデジタルツアー


若者の就職支援について

 『シンク・アンド・アクト』は京都における若者の就職支援事業にも力を入れている。きっかけは派遣切り等にあった方の就業支援をしている中に、大学を卒業してすぐの若者もいたことだった。その時、新卒一括採用の制度のもと、学歴の順番で就職が決まっていく現状に違和感を持ち、そこで大学生の就職支援を始めた。その後、景気が良くなり、学生もほとんどが就職できるような状況になると、今度は大学生とのマッチングに悩む中小企業から相談が寄せられるようになった。現在は、中小企業と学生をマッチングさせるハブ的な役割も担うようになってきているそうだ。カウンセリングでは、自身も就職や仕事において壁にぶつかってきたような、若者の就職に関する悩みを自分ごととして捉えることができる人を配置しているとのこと。

 そこで、若者の意識の変化について聞いてみると、経済成長がすべてではないという考え方をもった学生が出てきているという。また、ベンチャー企業が認識されるようになって、大企業に就職を志望する人が少し減ってきている感覚もあるともいう。「若い人たちは上の年代の働き方を見て、このままではよくないと思い始めているのではないか」と伊澤さんは言う。また、コロナ禍で不安を感じている若者も多い。「人はやりたいことにしかエネルギーは出ない」伊澤さんは言う。だから仕事をし続けながら、やりたいことは何かを見つけていくことがいいという。


▲若者就職支援の様子


読者へのメッセージ

 伊澤さんに持続可能な社会のイメージを更に詳しく伺った。伊澤さんは言う。「地域共同体のような生き残りの経済システム」だという。そこには、3つの大切なことがある。それは①この地域を残したいというマインド、②どうやって残していくかを科学的に見る力、③残していくために必要な技術(ITなど)だという。また、「SDGsで言われていることは、道徳の授業で学んだことや、祖父母から言い聞かされていたこと」だという。市民として経営者として、古き良き日本を手本にしながら取り組んでいきたいという。

 最後に読者に何かメッセージがあるかを聞いてみた。返ってきた答えは「自分たちは事業という表現を通して、地域に貢献したい。そうした決意表明をさせてもらいたい」とのこと。そのうえで、京都はプレイヤーが多いので、そうした人たちと一緒に「分かち合える関係性」を作っていきたいということだった。


 今回の取材の中で、生き残りの経済システムという言葉が印象的だった。成長だけを追い求める経済ではなく、地域が存続していくための経済を考えること。SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」にあるように、これは働く個人にもあてはまる。伊澤さんが若者の意識から感じ取っているように、今まさに、社会的な価値観は変化しつつある。



伊澤慎一(いざわしんいち)

2002年、京都大学経済学部卒業後、株式会社UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)入社。2009年、シンク・アンド・アクト株式会社を共同設立。2018年より一般社団法人京都スマートシティ推進協議会構成社員。2019年にはGlobal MIKE賞受賞。2020年より旧下京図書館「淳風bizQ」に入居。


【シンク・アンド・アクト株式会社】

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