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​人と場所の“あいだ”を想像する

Story 01

ナビゲーター:
山本 麻紀子さん(アーティスト)

集合場所は下京いきいき市民活動センターの会議室。
私たちはここで、机いっぱいの“大きな旗”を見せていただいた。

これは芸術家・山本麻紀子さんが、崇仁・東九条エリアで展開してきた活動の“現在地”となる作品だ。

この“大きな旗”がどのような経緯を経て制作されたのか。
私たちは時計の針を逆回転させるように、山本さんのこれまでの軌跡をまちあるきで辿った。
(イベント詳細はこちら

第 1 回の『East side story』は、芸術家・山本麻紀子さんが、この作品を作るに至るまでの地域住民との心温まるエピソードをご紹介する。

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写真で紹介している旗は、崇仁デイサービスの利用者の皆さん、京都市下京・東部地域包括支援センター主催のラジオ体操に来られている地域の有志の皆さん、そして崇仁児童館の子どもたちによる手作りなんだとか。

制作にかけた期間は 1 年と 2 ヶ月。
和紙の朧げな色合いが、旗全体に優しい暖かさを与えている。

モチーフとなった植物は、京都市立芸術大学と京都市立美術工芸高等学校が移転してくるために切られてしまった、元崇仁市営住宅・元崇仁小学校・元崇仁保育所などの樹木たち。これらの木が元々生きていた場所は、地域住民の皆さんにとっては懐かしい思い出がたくさん詰まった大切な場所だ。
そうした樹木たちを何とか残したいと、2020 年、芸術家の支援をしている東山アーティスツ・プレイスメント・サービス(HAPS)主催の事業内で挿し木づくりが始まり、山本さん自身が挿し木の成長を見守っている。

デイサービスの利用者さんに、挿し木に触れていただきながら過去の話をお聞きすると、小学校時代のエ
ピソードや暮らしの思い出が生き生きとよみがえる。
「よう先生に(正門にあった夏みかんを)内緒で食べて怒られて立たされてたわ。」
「私もやったわ。」
「え、こんなんしとったん!」
様々な言葉が口をついて出てくる。

土地の記憶や物語が、挿し木とともに世代を超えて生き続けてくれるだろう。

【01.うるおい館(京都市下京いきいき市民活動センター/​京都市下京・東部 地域包括支援センター/​京都市崇仁デイサービスが入る複合施設)】

 









私たちツアー参加者がまず最初に向かったのは、コミュニティーカフェ「ほっこり」。

入ってすぐに目に飛び込んできたのは、フィリピンの国旗とスナックだった。
私は 3 ヶ月ほどフィリピンに滞在したことがあるが、店内の棚には、その時に見たようなスパイス、スナック、シーズニングがずらり。
ドリンクを頼もうとメニュー表を見せていただくと、そこにはココナッツドリンクまであった。
味も本格的。


この商品のラインナップにはこの地域の歴史と現状が深く関わっている。
このカフェを運営されている東九条地域活性化センター代表の小林栄一さんによると、東九条地域には戦前から在日コリアンが集住し、現在も数多くの外国籍住民や外国にルーツを持つ市民が居住しているそう。
そのため、住民同士の多様な形の助け合いや連携、差別や貧困に抗する活動の歴史を有する。そして、地域に根差した民衆の芸術活動、東九条春まつり・夏まつ
り、東九条マダンなどの幅広い多文化に裏打ちされた共生社会を実現し、多様性を尊重するまちづくりが行われてきた。
小林さんは、時にはお酒も飲みながら語り合えるこのカフェが、「多文化共生の拠点。在留外国人の生活を応援する拠り所。」になればという想いで開設されたんだとか。

そんな小林さんにとって山本さんは、「(挿し木プロジェクトなど)自分にできないことをもたらしてくれる、一緒に作っていける存在」なのだそう。
山本さんは月曜日の朝「ほっこり」でお手伝いをしながら、地域の声に耳を傾け続けている。

ここは魅力あふれる、グローカルな交流が生み出されているローカルなのだ。

【02.コミュニティーカフェ「ほっこり 」】










カフェから東にすぐのところに、京都市地域・多文化交流ネットワークサロンがある。
様々な困難を抱えている方に向けて「幅広い多文化を促進する事業」を行っており、山本さんはここで、児童館の子どもたちや地域住民と活動している。


施設長の前川さんは、植物から色を採る作業の際に、山本さんが子ども達に命の尊さを力説されているのを聞き、「この人は、子ども達に大切なことを説明できるアーティストだ」と思ったそうだ。
地域の植物の名前を知り、自分で染色のための植物を摘む作業は、これまで見過ごしてきた地域の潜在的な魅力への「気付き」を子ども達に与えるきっかけにもなったのではないかと思う。

山本さんはここで、希望の家児童館の子どもたちや地域住民、制作に興味を持ってくださる方と次に紹介する大きな作品の一部を作成した。

【03.京都市地域・多文化交流ネットワークサロン】

 








サロンから総合福祉施設東九条のぞみの園まで徒歩 2 分。
玄関から入ってすぐを右に曲がると、大きなタペストリーが視界いっぱいに広がる。
これは山本さんが施設職員らとともに再生させた中庭、「ノガミッツガーデン」誕生の 1 年間の風景なんだとか。
よくよく見ると施設長の小笠原さんの姿も。







この作品は希望の家児童館や凌風小中学校家庭科部の子ども達、地域の方や職員など、のべ 90人ほどの手によって作られている。
やり方は、全く知らない人が途中まで縫っていた部分を、別の人が継いでいくスタイル。
そして最後の仕上げは利用者さんによる
色塗りだ。
タペストリーを通して時を超え、世代を超えた、様々な人のつながりが見えてくる。

タペストリー上部にあるパッチワークの植物は、中庭を作る際に地域の方からおすそわけいただいたもの。
さらに使用されている糸はさきほども紹介した、希望の家児童館の子どもたちや山本さんが採取した草花から染めたものらしい。

小笠原さんによると、この施設は地域の人からの「想いのおすそわけ」、「時間のおすそわけ」に支えられているのだそう。
山本さんには若者と高齢者、地域と施設をつなげる力があり、現在も地域に活気をもたらす「おすそわけのケア」という立場で活動されている。

【04.総合福祉施設東九条のぞみの園】

 









住宅街を歩いていると、山本さんが突然すっと植木鉢を指差した。

山本さんは 2016 年の春、ひょんなことから東九条に暮らし始め、近所を散歩しているうちに、家々の植木や草花に目が行くようになったのだとか。
初めは植えられている植物に関心があったのが、植木鉢、置かれている場所、住まいへ興味が広がったそう。
山本さんは住人と共に様々な
環境で時間を過ごしている植木たちにどんどん魅了されていき、足繁く通ううちにその持ち主さんたちとお話をするようになったのだそうだ。

私は山本さんに言われるまで、それぞれが趣向を凝らした植栽に全く気が付かなかった。
「こんな身近なところにアートへの入り口がある」ということに、気づかせていただいた。

【05.街中の植物】

 









住宅地を進むと、小さな鳥居が壁のように並ぶ不思議な神社、「新宮神社」がある。
山本さんはそこの案内板に、「現在の九条河原町上に上がる広大な『新宮の森』と云う屋敷があり、遠くからでも見える大木がそびえていたと云われます。」という一文を見つけた時、「そういえば木って人間よりも何倍も何十倍も長い時間を生きている。私たちが知らないこと も知ってるんだ。」ということに改めて気づき、衝撃を受けたそうだ。

【06.新宮神社】

 









神社から次の目的地ひかり公園へ向かう途中、東九条マダンセンターの前を通った。

山本さんは月曜日に「ほっこり」でモーニングを手伝った後、ここで「はりしごとの会」の皆さんと活動するのがルーティン。

日々の悩み事や地域のこと、挿し木のことなどを話しながら手縫いで、かつては東九条マダンで子ども達が着用するパジチョゴリを作っていたそうだ。
1 着の制作期間はなんと 2 年。
今は針山を会のみなさんと作っている。

【07.東九条マダンセンター 】










JR 奈良線の高架下をくぐり抜けると、ひっそりと静かなひかり公園が佇んでいる。
山本さんは、初めこの公園がすごく怖かったのだそう。確かに公園内は日光があまり入らず、人通りも少ない。

しかし、地域住民にひかり公園についてのエピソードを聞いたり、ここに生きている草花を採集して、糸の染色をしたりしているうちに、だんだんと身近に感じるようになっていったそうだ。
「怖いのは自分が(地域のことや住んでいる人たちのことを)何も知らないから。自分はいつでも変われる。」ということを思い知った山本さんは、それを教えてくれた地域に対して、何ができるだろうと考え始めた。

そして、これがすべてのプロジェクトの始まりとなる。

【08.ひかり公園】


ある参加者さんが、今回のツアーを「やさしい時間」と表現されていた。
私も本当にその通りだと思う。
アートで地域の問題を隠してしまうのではなく、アートで問題に向き合っていく。
山本さんの活動を見ていると、この方はどんな時でもまず地域の方々の思いが中心にあるのだと感じた。
私は今回アートによって多種多様な人々の動きが生まれ、さらには地域内で新たな出会い・交流といった、社会関係が生起されていく現場を目の当たりにした。
参加者さんが「やさしい時間」と仰ったのは、作品の制作過程にさまざまな人々が参与し、その
協働性が作品の大きな構成要素となっているのが伝わったからだと思う。
このツアーで、人々の声や想いを表現したアートの持つ力強さに気づくことができた。

建林

​執筆者:

【09.下京いきいき市民活動センター(最後に)】

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