~フォーワード~
煮込んでいる間の待ち時間、免罪符のような時間が生まれる。 4時間くらいコトコト音を聞きながら、ブクブク泡を見ながら 時々アクをとってあげながら、ただ時間を過ごす。 その間、何かを成し遂げる必要もないし、責任を感じる必要もない。 何もしていない訳ではない、料理をしているのだから。
~プロローグ~
今回は、地域で活動する若手アーティストの奥山愛菜が大学時代に学んだ郷土料理「牛すじの煮ごごり」作りを通じて、参加者と共に時間を過ごします。かってお正月には、崇仁地域の町中あちこちで、すじ肉の入ったお鍋がグツグツと音を立てていたそうです。過去の誰かも煮ごごりの完成を待っていたように、時には未来の誰かを想像しながら、待つ時間を味わう。それがこのプログラムの醍醐味です。
1章
【集合場所:下京いきいき市民活動センター】
今回のイーストサイドストーリーは、数年前の吉田さんと地域のおばあちゃんのやりとりから始まった。
おばあちゃんが吉田さんに会った際に話すのは、変わってゆく地域への不安が多かった。
おばあちゃんは地域がどんどん変わっていくことをずっと受け入れられないままだった。
そんなある日、昔お正月に食べていた地域の料理「ホルモンの煮凝り」が話題に上がった。
すると一変、おばあちゃんはとてもいきいきと思い出を話し始めた。
その様子を見て吉田さんは、地域で活動する大学生と一緒におばあちゃんと煮凝りを作ってみようと思いついたそうだ。
East Side Story 煮凝り編
これこそが今回のイーストサイドストーリー、「煮凝り×奥山さんの物語」の始まりである。
さて、イベントの当日。
吉田さんのお話が終わると、参加者の自己紹介が始まった。
参加の動機として、「イベントの長さに興味が湧いたから」とおっしゃる方が3名も。
確かに8時間ものイベントなんてなかなかない。このイベントに参加している人に会いに来たという方までいらっしゃった。これはユニークなイベントになりそうな予感がしてくる。
2章
【買い出し】
オープニングが終わった後は、荷物を置きにサロンに寄ってから地域のお肉屋さん「ホルモンのマルハシ」に向かった。
引率したスタッフを含め、全員がホルモンのマルハシに行くのは初めて。マップを頼りに向かった先のお肉屋さんには、珍しいお肉の部位がドドンっと置かれていた。
が、そこは同じ会社の別店舗だったようで、気を取り直して、改めてホルモンを予約していた店へ向かう。
スタッフの藤本さんが会計をしている間、私は参加者の皆さんと「なんやこのお肉」「でか」「うまそう」を連呼していた。スーパーのお肉コーナーにはない独特の雰囲気を感じる。
ホルモンを買った後は、煮凝りに欠かせない調味料、「醤油」を買いにRakuten stayへ行った。このお店にはお惣菜のようなものも売られており、それぞれ自由に買い物を楽しんだ。
店内のベンチには近所のおばあちゃんが2人。煮凝りを今から作るんだという話をすると、「煮凝りにはねー、ビールが一番合うんだよ」というなんともストレートな返事が返ってきた。
煮凝りは地域住民にとって身近な料理なんだなということがここでも感じられる。
3章
【洗って煮込む】
買い出しを終わらせた後はサロンに戻って、ホルモンを洗う作業に取り掛かった。
大きすぎて、参加者さんがポロリと「雑巾みたいや」とこぼす。
言い得て妙すぎる。
洗った後、ホルモンは切らずに豪快に2つの鍋に入れ、蓋をして水から煮込む。
私がちょっと台所を覗くと、蓋の上に金の鯉が、、
なんだと思って蓋を開けてみると、ホルモンが買った時よりも大きくなっていた。
「金の鯉、重しに使われてるやん」と思うと同時に、ホルモンってこんなに水分吸うんだと驚いた。
4章
【お昼ご飯】
煮込んでいる間に、お昼ご飯の時間になった。
今回のイベントの昼食は、参加者さんが自由に地域の店へ行き買ってくるというスタイル。
イベントの写真撮影のために同行されていた地域住民の方にお店の紹介をしてもらい、それぞれが行きたいお店を選んで何人かのグループでお店へ向かった。
この地域では、事前に電話をして作っておいてもらうのが常識らしい。
私は事前に電話で注文してから、2人の参加者さんと一緒に「糸ちゃん」と「平井」へ向かった。
予約のおかげで、通常ならお昼時は待たなければいけないところをこんなにスムーズに行けるとは。
「糸ちゃん」でホルモンの天ぷらを買い、スタッフ用のまんぼ焼きを「平井」で買った。
どちらも本当に美味しそうだし、待たなくても済んだしで、ちょっと得した気分になった。
13時、各自がお昼ご飯を片手にサロンに戻ってきた。
参加者は、名物そばめしを「カメちゃん」へ買いに行った人、ホルモンの天ぷらを「糸ちゃん」に買いに行った人、「さんかく」と「カタパン」というパン?を「カタパン屋」に買いに行った人に分かれていたようだ。「カタパン屋」はネットで調べていきたいと思っていた場所らしく、とても満足そうだった。
「さんかく」は生地の表面は焼かれているが、中にはとろりとカスタードのようになっていて、ぱっと見はホットケーキのようだった。
(食べていたF、H、Kさん)
Fさん:「(中に入っているの)カスタードや」
Hさん:「カスタードじゃないんです、生地です。」
Kさん:「え、生地なの!これ」
初体験を楽しむ、なんともいい反応。
ちなみに私もむっちゃくちゃ驚いた。
5章
【食後の休憩タイム】
昼食を食べ終わったころに、ホルモンの煮込み具合もいい感じに。
奥山さんからそろそろ切ろうという声がかかったので、ついにお肉を切りにかかった。
部位によって切る感覚が違うそうで、参加者全員で切り分けた。
切っている人の隣からは早速つまむ手も、、
醤油をつけていただくと、当たり前だが味はThe ホルモン。
切り終わったあとは、また2つの鍋で煮込むのだが、今回は醤油も入れる。
量はまさかの目分量。
味見をすると1つの鍋はいい味加減だが、もう1つは塩っ辛い。
スプーンを片手に奥山さんの周りで何人かの参加者さんが、
「うーん、味濃い?」
などと言い合っている。
しばらく、キッチンに味見をしにいったり、部屋でゆっくりしたり過ごしていると、スタッフの藤本さんが部屋にプロジェクターをセットして、奥山さんの活動が紹介されている「東九条を耕す計画『ただいも』」という動画を、さりげなく映し始めた。
キッチンにいた参加者さんもぞろぞろと部屋に入ってきて、皆思い思いのスタイルでくつろぎ始めた。
数分もすれば、食後のお昼寝タイムのような状態に。
椅子や座布団を別室から持ち出して快適な食後を過ごした。
6章
【外をぶらぶら】
1時間くらいの動画が終わると、そろそろ外へ行こうかという話になった。
まず向かったのは高瀬川南市営住宅の広場の花壇。
花壇といっても植っているのはさつまいもやローズマリーなど。
ここで奥山さんは「ただいも」という活動の一環として、畑作業をしている。ちなみにこの畑(花壇?)は2つ目だそうで、市営住宅にいる知人から紹介していただいたのだそうだ。
そんな話を聞いていると、
「ローズマリーやん!」
「これってスーパーで買ったら高いですよね」
などという参加者の声が聞こえてきた。
奥山さんの了承を得て、数本お持ち帰りさせてもらう。
一通り楽しむと、奥山さんがすぐ隣の高瀬川へ案内してくれた。
そこは護岸工事が終わったばかりで、とても綺麗な場所だった。
サンダルを履いてきていた参加者はこのために履いて来たんじゃないかと思うほど、川に入って楽しんでいる。
気持ちよさそうで、とても羨ましい。
ひとしきり遊んだあとは、3〜4分歩いたところにある「地域・多文化交流ネットワークセンター」へ。
ここの駐車場の入り口付近にある植木スペースが、「ただいも」の1つ目の畑だ。
ここに植っているのはトマトや青じそなど。
「シソって煮凝りに合うんじゃない?」
ということで、また何人かがシソを持って帰らせてもらっていた。
そろそろサロンに帰ろうと歩いていると、前回のイーストサイドストーリーに登場した「コミュニティカフェ・ほっこり」の前を通った。
スタッフの藤本さんが簡単に説明すると、せっかくだからとみんなで寄ることなった。
とりあえず大きな机を囲って座り、飲み物を頼む。
ココナッツジュースに挑戦する人、サワーを頼む人、暑いのにホットコーヒーを頼む人など注文も皆それぞれ。
ここでは、しばらく飲み物を飲みながらゆっくり過ごした。一緒に料理をして、お昼を食べて…としているからか、参加者同士の距離はとても近く、話す内容は職場の話や得意なことの話など、結構個人的なもの。
ここで時計を見て、もうイベント開始から6時間も経ったのかと驚いた。
ひと段落ついて、そろそろ会計というときに、私は財布を持ってきていないことに気がついた。
とりあえず奥山さんに立て替えていただこう…。
気持ちを切り替え、「ほっこり」を出て、またサロンに向かって歩き始めた。少しすると参加者の一人から、「かわしろ商店」にとても人気のある水羊羹があるから帰りに買って帰りたいというご要望が上がった。まだ店にあることは電話で確認が取れているようだったので、とりあえず向かうことに。
よく売り切れているのに、まだ6、7個積んである。ついてる!!
さらにお店の入り口には、有名な下京の「ツバメソース」が。
もちろんこれを買っている人もいた。
7章
【最後の仕上げ】
人数分の羊羹を持って、スタッフの吉田さんが待つサロンへ。
サロンのキッチンにある窓が開いていて、近寄ると醤油のいい匂いが外にまで漂っている。
最後にもう一度味見をして、煮凝りが完成となった。
でも食べるのは凝りが固まってから。
明日が楽しみだ。
8章
【あとがき】
最後に感想を言い合うことになった。
「こんなに初対面の人とダラつけることあるんや。」
「地域とか歴史と文化のツアーは他にもあるけど、今回のツアーでは半分だらけながらやることによって、神様がどうのこうのじゃなくて、その今の時代の今の雰囲気をより感じ取れたなっていう気がしました。」
「まちの人と『こんにちは』とかじゃなくて、ご飯(煮凝り)のお話とかができた。
観光でも住んでる中でもそんなことはなかった。」
「キーワードが示されることで、いつもと違う風景を見ることができた。」
そういえば、確かに。
思い返せば私も不思議なくらい地元民気分だった。
奥山さんや吉田さんによるとこれは時間軸が共有されていたからではないかということだった。
地元の人が昔からしてきたのと同じように、煮凝りができあがるのを待ち、サロンでのんびり過ごした私たち。
時間を飛び越えて、地元の人の想いを共有したらしい。
「煮凝り作り」は4次元トンネルだった。
執筆者:建林