2021年3月5日(金)、下京いきいき市民活動センターで連続講座『Dive-in SHIMOGYO』の第2回目「インクルーシブな観光まちづくり」を実施しました。
当日は、day1で体感した「SDGsで地方創生」の具体的事例として伝泊+まーぐん広場を取り上げました。
本事例を通じて、「SDGsの視点で取り組む地域課題解決」に「多様性」のキーワードを加え、地域内外の多様性をつなぐ仕組みを学びました。
奄美大島では、「しま」は集落を意味すると言います。
奄美大島に360以上ある集落はそれぞれ全く異なる文化を持つといいます。これは、江戸時代に薩摩藩に支配をされていた時期に集落間の交流を断絶したことで支配力を拡大した歴史と関係しています。
しかし、「文化、歌、方言など、それぞれ非常に独特な文化、それこそが「たから」であり、その担い手は「ひと」です。だから、講演のタイトルは『しま・ひと・たから』」だと山下保博氏は冒頭お話されました。
講演いただいた山下氏は、建築家として「誰も買わない小さな敷地に豊かな住空間を実現」「見捨てられた地域素材を開発し地域を豊かにする」ようなわき役に視点を持って再評価することを一貫して行ってきており、世界の新人王にも輝いています。
九州大学での高齢者・障がい者・観光客による街の活性の授業を5年間行いながら、構想を練り、2016年から伝泊+まーぐん広場の取り組みを開始しました。
多様性を活かしたまちづくりにおいて大切なことはなにか?
伝泊+まーぐん広場における多様性を活かすとは
講演会でのお話を踏まえて、参加者同士で「多様性を活かしたまちづくりにおいて大切なことはなにか?」をテーマにディスカッションを行いました。まず、「多様性」とはどのようなものを指すのでしょうか。
社会の多様性:
奄美大島では、歴史的背景からそれぞれ独自の集落文化を持って発展してきており、集落単位での集団感覚が強く存在します。
その集落文化を活かした体験プログラムも30件ほど生まれています。地域住民に長らく愛されたスーパーを改修して作られたまーぐん広場には、高齢者施設と障がい者施設も併設されており、日常的に行きかいます。
奄美大島が世界自然遺産登録間近ということで観光客も増え始めています。
伝泊+まーぐん広場は、集落住民・高齢者・障がい者・観光客といった社会的に普段は交わることがなかったような人々が自然に交わり共生できることを強く意識しています。
個の中の多様性:
伝泊+まーぐん広場の参考事例として紹介された鹿児島・いろ葉という高齢者施設では、『一人』のために何でもするのがほんとの「多機能」として一人一人の個性に寄り添った介護であるという理念を実践しています[1]。
このように伝泊+まーぐん広場でも、個のなかの多様性を大事にしていることがわかりました。
時空間と資源の多様性:
伝泊は、地域の伝説的な空き家のストーリーを大切にしながら創造的に空き家を宿泊施設に改修し、それを語り継ぐ地域住民と観光客とが交流するものです。
この空き家(伝泊)の改修をする際のコンセプトとして「ときを大切にする」を掲げています。島に流れる現在を超えた時間を大切にされていました。
特に歴史のなかで分断された人々が、この現代に多様性を尊重する伝泊+まーぐん広場の取り組みによってアプローチすることの可能性を感じました。
また、山下氏が建築家として取り組まれていたように、地域には見捨てられたような資源やだれも見向きもしない敷地のような場所がたくさんあり、それも多様性を活かす空間的な視点だと思いました。
このように、伝泊+まーぐん広場では、地域の集落文化やそれに集う観光客、また彼らの個のなかの多様性と地域に流れる時の多様性、地域資源や場所といった多様性を最大限に生かしながらまちづくりをやっていると捉えることができます。
社会性と経済性の両立を地域ファーストでコーディネートする
次にこれらの多様性への感覚をどのように実現していくことができるのか?について考えました。
参加者からは、「それぞれの考えていることをシェアするための場を作る」「多様な人が関われるための関わりシロをたくさんつくる」「わかりやすい明瞭な説明を心掛ける」などの意見が出されました。
「それぞれの考えていることをシェアするための場を作る」ということに関して、伝泊+まーぐん広場の事例では、「じじばば応援の会(地域の声を拾う会)」開催を2018年12月より毎月1回実施しています。参加者は、笠利支所、いきいき健康課、社会福祉協議会、周辺集落の区長、奄美イノベーションです。
内容は、地域の代表から生の意見をヒアリング、アンケートによる網羅的な意見集約、分析とグルーピングを行います。
これまでの主な要望と実施として、
1. 安価な宿とランドリー
2. 寄り合い場所
3. 買い物・配食支援
4. 移動・送迎支援
5. 緊急時連絡網
などを行ってきました。
「多様な人が関われるための関わりシロをたくさんつくる」ということに関しては、地域住民が隙間の時間を使って観光客に自分の得意なことや日常を切り売りすることでお金を得たり、刺激を得たりする機会を作っていました。
また、コミュニケーションの量を増やすために、まーぐん広場は作られました。ただ作るだけでなく、そこで観光客と地域住民の対話が生まれるように様々なコンサートや500円ランチなどのイベントを開催してきました。コロナ前には、1年間で4000人が集まる施設となりました。
もともと、地域住民に長い間愛された伝説的なスーパーが閉店することが決まり、そこを再び「地域コミュニティのコアにしよう」ということで山下氏によって改修されました。
山下氏が、まちづくりの参考にしたのは人口2万人のうち40%が障害者のまちドイツのベーテルでした。そこでの、福祉×地域の取り組みにあえて「観光」を入れて「福祉×地域×観光」のまちづくりを展開しました。その理由として、まちづくりは新しい血や活力が必要ということと、お金が回らないと持続しないということがあり、それは観光がもたらしてくれるものだと考えたからです。
最後に「わかりやすい明瞭な説明を心掛ける」という点です。集落との付き合い方として、「行政に話す→区長に会いに行く→何回も住民説明会を開く→ぜひ来てほしいと言われたときだけやる」ということを大切にしていました。
こうした基本的だが地道なことの積み重ねを民間の主体としてできるか否かが地域の人々にも信頼してもらえるかの重要な分かれ道のような気もします。
また、伝泊+まーぐん広場の事例ではプロジェクトの過程においてすでに改修が決まり動いていたプロジェクトも、集落の常会での「ノー」という意見変更が出た際には手を引いたと言います。このように集落が納得をするまではやらないということをモットーにしています。
持続可能な未来を焦点とした立場を超えた共創の仕組み
以上のように、「福祉×地域×観光」のまちづくりのように多様性を活かした取り組みを推進していくためには、高い社会性を持ったコーディネート機能のある運営システムが仕組みとして重要であることがわかりました。
高齢者の増加や福祉の担い手の不足、地域住民不在の観光によるオーバーツーリズムなど、共通する持続可能性への課題に対して、多様性を活かすことで解決に向ける視点を持った取り組みはとても参考になりました。
グラフィックレコード①by Tsuyoshi Yamaue
グラフィックレコード②by Tsuyoshi Yamaue
リンク:
地域コミュニケーター 藤本直樹
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