​カ レ

Interview with
Munetaka Kaneko

​インタビュー|金子 宗孝さん

                                (特定非営利活動法人 京都自死・自殺相談センター Sotto)

絶望している人にそっと寄り添うこと

~聞いてもらえる場所がここに~

2019.12.26

​文筆:中尾 まり 写真:中池 雄士

Sottoのマスコットキャラクターがかわいい

Sottoとは

今回、訪れたのは、『特定非営利活動法人 京都自死・自殺相談センター Sotto』。Sottoは、「そっと一緒にいよう」ということから命名された。自死に関することに向き合うセンターであれば、さぞかし緊張感高まるオフィスなのだろうと思っていたが、部屋に入ると事務局長をはじめ、スタッフの方々が明るく迎えてくださった。そして、インタビューに答えてくださったのは、理事兼相談委員長の金子宗孝(かねこ・むねたか)さん。淡々とお話されながらも時にはユーモアを交えて、法人の概要や理念を語ってくれた。

 Sottoは、2010年に設立されたNPO法人である。自死が多くなってきた日本社会に何ができるのか、と考えた僧侶の方や一般の方々10名ほどが集まって立ち上げた。当時20代だった金子さんもそのメンバーのひとりであり、デザインの仕事を活かして何かできればと思ったことがきっかけで、相談員になったとのことだ。ちなみに、相談員は相談者から〈Sotto〉さんと呼ばれている。

 現在、スタッフは常勤1人、非常勤2人の3名。加え20名ほどの対人支援のボランティアがいる。活動内容は、電話相談だけでなく、悩みを感じている方々が少しでも安心して過ごせる居場所を定期的に提供する〈おでんの会〉や、何も言わなくてもいい、ただゆったりして映画を観る〈ごろごろシネマ〉、家族や友人、恋人など大切な人を自死で亡くした人のための〈語りあう会〉といった行事や、年に一回のシンポジウムを開催している。最近では、メールでの相談受付も始めたが、相談件数が非常に多く、対応しきれない時もあるのこと。また、〈おでんの会〉はたいへん好評で、毎回、あっという間に定員に達してしまうそうだ。

〈おでんの会〉名称の由来はおでんの具がいろいろあるように、様々な人が集まることで、身も心も暖まるように、という想いを込めて付けられている。ちなみに、おでんの会には〈食事の場〉〈研究の場〉〈からだ・こころリラックスの場〉がある。

イベントパンフレットが事務所に数多く置かれている

自死すら否定的なものではない?

まず、金子さんが「Sottoは死を悪いものだとは考えていない」と話されたことに驚いた。自死しようとする人のための電話相談をしている、と聞けばどうしても〈自死を防止することを理念としている〉のではと考えがちだが、そうではない。Sottoの理念は「死にたいほどの絶望的な状況から、少しでも楽になってもらえること。大切なのはそういった人たちに寄り添うこと」と、金子さんは言う。「人は死にたいから死ぬのではなく、今のどうしようもなさから絶望して死にたいと思う。だから、そういう苦しい思いをしている人たちに〈死んでどうする?〉〈がんばって!〉と言っても、自分が責められている気がしてしまう」とのこと。「死にたいくらい苦しんでいる人が、電話を掛けてきた後に、もしかしたら自死してしまうかもしれない。けれど、その時に、その人に〈一人で絶望していただけじゃない。電話で聞いてくれる人もいた〉と思ってもらえれば、それでいい」と金子さん。Sottoでは、自死も含めた〈死〉を悪いこととしてはとらえてないのである。自死というと、どうしても世間では悪いイメージを持たれがちであるが、自死を否定することにより、苦しむ人をかえって追い詰めてしまうケースがあるそうだ。家族や親しい人たちが自死してしまった人たちの集まりを主催しているSottoは、自死してしまったことを否定せずに受け入れる。死は悪いことではない。ただ、死にたいほど絶望している人たちに寄り添いたい。そのやさしさがSottoの基本理念なのだ。

Sottoに必要なこと

 Sottoでは、死にたいほど絶望した状況下で電話を掛けてきた人たちが「何に苦しんでいるのか」を理解しようとする。困っている人がいたら何とかしてあげたい、と思うのは、自然な感情だろう。ただ、Sottoに訪れる相談者に対しては、「何とかしてあげたい」という思いが必ずしもいい結果を生み出すとは限らない、とのこと。

 これは難しい問題である。確かに人を助けたいという思いから、独善的になってしまうこともある。Sottoでは、独善的な対応にならないために、相談員になる人は研修を受ける。これを〈Sottoさんになるための研修〉と金子さんは言う。研修は、支援に携わる前に10回、その後も月に1回受ける。主にロールプレイング形式で行い、相談者として設定された側から〈こういうこと、聞いてもらいたかった〉といったフィードバックをしていく。ここでは専門知識やこれまでの経験は必要としない。ただひたすら〈相手の立場になって考える〉ための訓練をする。たとえば、かつて自死したいと思った人が、苦しさを乗り越えた成功体験を、苦しい思いをした人に語ったとすると、それは上から目線のアドバイスになりやすい。〈自分はこうやってその状況を乗り切ったのだから、あなたもそうやって乗り切れるでしょ?〉ということにともすればなってしまう。自分にとってよかったことが、相手にとってもいいとは限らない。ロールプレイを通じて、あくまで相談員は〈Sottoさん〉であることを見つめ直す。徹底的に相手のことを考える。逃げない。嘘をつかない。真摯に向き合う。こういったことを念頭におきつつ、相手の立場を尊重するのだ。それがどれほど難しいことかは、容易に想像できる。これまで相談員として研修を受けた人は200名にものぼるそうだ。

 その相談員の責任ある立場として、Sotto設立の時から関わってきた金子さん。「Sottoを始めてよかったと思うことはありますか?」と聞いてみた。「Sottoに来た人に、〈これまで誰にもわかってもらえなかったことをわかってもらえた〉と言ってもらったこと。おでんの会に来た人が〈全然食べられなかったのに、今日は食欲が出た〉とか、ハンドマッサージを受けた人が〈その晩、よく眠れた〉と言ってくれたことが嬉しかった」とのこと。

見えてきた社会課題とこれからの展望

「Sottoの活動をやっていて、見えてきた社会課題はあるか」と聞いてみた。「〈自分の周りには誰もいない〉と感じて、絶望感を持っている人が多い。ただ、いいこともあって、以前は〈自殺する人は弱い人〉という偏見があったが、〈うつ〉という概念が広がってきたこともあり、そのような認識も変わってきている」とのこと。金子さんとしては、Sottoを「価値観を発信する場にもしたい」そうだ。「こういうことはダメ、こうしないとダメ」というのは、正論でもあるが、正論だけだと人は追い詰められていく。だから、価値観の転換が必要です、とのことだった。

 最後にこの情報誌を手に取ってくれた方へのメッセ―ジをお願いした。「聞いてもらえる場所があるっていうことを知ってほしい。Sottoもそのひとつであるが、居場所というのは手段であり、目的ではない。絶望が絶望じゃなくなる場所。そういう時間を提供する場でありたい。こういう所があるから頑張れる、そういう思いを持ってもらえるといいですね。漫画の〈ちびまる子ちゃん〉のおじいちゃん(さくら友蔵)の部屋があるでしょう?そこにまる子が〈おじいちゃん、聞いて、聞いて〉と言って入ってくる。あのおじいちゃんの部屋みたいなイメージを持ってもらえるといいですね」と、金子さんは言う。『下京いきいき市民活動センター』も困り事や苦しいことを抱えた人が気軽に来てくれる、そんな場になれるといいですね、と金子さんはエールを送ってくれた。多様な価値観を受け容れ、集まる人の声に耳を傾けていく。私たちもそんな場を作り上げていきたい、と金子さんとお話をして強く思った。

かねこ むねたか

​Sotto理事兼相談委員長。1982年生まれ。大阪府出身。京都の大学で経済学を学んだあと、20代の頃よりデザインの仕事に携わる。当初デザインで関わる予定だったのが、今は相談員の育成のために尽力。200名以上の相談員を育てる。

【特定非営利活動法人 京都自死・自殺相談センター Sotto】

〈住所〉京都市下京区西中筋通花屋町下ル堺町92
〈事務局〉075-365-1600(平日9:00~17:00)

〈ご相談受付〉075-365-1616(毎週金・土19:00~25:00)

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